ため池
ため池とは、降水量が少なく、流域の大きな河川に恵まれない地域などで、農業用水を確保するために水を貯え取水ができるよう、人工的に造成された池のことです。全国に約15万箇所存在し、西日本を中心に全国に分布しています。ため池は、農業用水の確保だけでなく、生物の生息・生育の場所の保全、地域の憩いの場の提供など、多面的な機能を有しています。
また、降雨時には雨水を一時的にためる洪水調節や土砂流出の防止などの役割を持つほか、地域の言い伝えや祭りなどの文化・伝統の発祥となっているものもあります。
ため池築造の歴史はとても古く、昭和以降に築造されたため池は全体の約1割程度しかなく、約7割は江戸時代以前に築造されたため池であり、その中でも最も歴史があるため池は、約1,400年前に築造された「狭山池(大阪府狭山市)」というため池で、2022年になった現在も利用され、田んぼや畑を潤し続けています。
笠間市では、令和5年3月31日現在、144つの農業用ため池と1つの防災重点農業用ため池(不動谷津池)があります。
役割
ため池の多くが明治時代以前に作られ、現在も地域の貴重な水源としての役割を果たしているとともに、農業を続けることで洪水を防ぐ役割や自然環境の保全などさまざまな役割も果たしています。
【洪水防止】
大雨が降った時に水を一時的にため込み、下流域の氾らんを防ぐ役割があります。
【土砂流出防止】
上流からの土砂の流出を防ぎ、下流の田畑や民家を被害から守る役割があります。
【生態系保全】
水が蓄えられた空間は、動植物の命をはぐくむ役割があります。
【親水空間形成】
地域の住民に、水に親しめる場所を提供しています。
【歴史・文化の継承】
水を確保するため、地域の人々が苦労した歴史や伝統行事などが伝えられています。
構造
ため池は、水を溜める堤体と豪雨時に洪水を安全に流下させるための洪水吐、そして灌漑用水を取り入れるための斜樋や底樋といった取水施設等で構成されています。全国にあるため池の約7割が江戸時代以前、又は築造時期が明らかではない古い施設であり、堤体土質、品質・性能が不明なため池が多く、また、経年による堤体の強度低下等の老朽化や洪水吐が整備されていないなど防災上の懸念があります。
そのため、ため池の構造を把握し、ため池の状況に応じた点検や補修等の維持管理、改修が重要となってきます。
●堤体
近代のため池の堤体(堤防)は、細粒分の多い土や粘土分の多い土をタイヤローラー等の機械によって締め固めた土木構造物です。上流側(貯水池側)の堤体には「コア(刃金はがね土)」と呼ばれる特に水を通しにくい土質の土が使われており、貯留している水を遮水します。 また、上流側の堤体法面には貯留水の波による浸食を防ぐため、張ブロックが設置されています。
老朽化や地震等によって堤体の強度が低下していると、漏水の原因のひとつとなります。豪雨時に貯水位が急激に上昇すると堤体内の水圧も上昇し、水が逃げ場を得ようと上流部から下流部(漏水等がある強度が低下した箇所など)にかけてパイピングホールと呼ばれる貫通した穴を発生させることがあり、この開口した穴からため池の決壊(浸透破壊)に至る場合があります。
●洪水吐
豪雨時や台風の時に貯留させた水がため池の堤体を越えないように、流入した雨水を安全に流下させるための施設です。土砂や流木、ゴミ等で洪水吐が閉塞されていると豪雨時に貯水位が急激に上昇した際、水が堤体を越えてしまう「越流」が発生します。越流が発生すると越流水によって下流部の堤体法面が浸食され、非常に危険な状態となり、ため池の決壊(越流破壊)に至る恐れがあります。
●取水施設
斜樋や取水塔といった取水量を調節する取水部と底樋や取水トンネルといった取水を用水路等に導水する導水部によって構成されています。
斜樋は、上流側の法面に設けられ、取水ゲートや栓が各段に設置され、水位に応じて水面付近の温かい水を取水できる構造となっています。斜樋は大きな支持力を有する地盤を必要とせず、施工が容易であり、構造的にも安定で維持管理も容易な施設です。
底樋は、斜樋から取水した水を場外の用水路に導水する施設であるとともに、ため池を空にするための排水施設としての役割も担っています。取水トンネルに比べ工事費が少ない反面、ため池の底部に敷設されるため、堤体の土圧や地震等に不利がありますので、定期的な点検が重要となります。
ため池の法律
平成30年7月豪雨などの近年の豪雨等によりため池が被災し、甚大な被害が発生しています。
このため、農業用ため池の情報を適切に把握し、決壊による災害を防止するため、「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」(平成31年4月26日法律第17号)(以下「管理法という。」)が制定されました。
また、平成30年7月豪雨により、多くの農業用ため池が決壊し、人的被害を含む甚大な被害が発生しました。一方、決壊により下流の住宅等被害をおよぼすおそれがある農業用ため池は全国に数多く存在しています。地方公共団体などからは、財政やマンパワーに限界があり、防災工事等を推進するためには財政支援や技術支援が必要との声が多く寄せられました。このため、防災重点農業用ため池に係る防災工事等を集中的かつ計画的に推進することを目的として、「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」(令和2年6月19日法律第56号)(以下「特措法」という。)が制定されました。
この法律等でそれぞれ、次のように定義されています。
1.農業用ため池(管理法で定義)
2.特定農業用ため池(管理法で定義)
3.防災重点ため池(この法律で定義されているものではありません。)
4.防災重点農業用ため池(特措法で定義)
ため池の種類
No.1農業用ため池
農業用水の供給に使われている貯水施設のうち、人工的に作られた施設としての「堤体」及び「取水施設」で構成されたものです。
〇現に使われている施設
〇現在は使われてれていないが、農業用に利用できる状態にある施設
・受益地がなくなり農業用の利用を廃止していても、堤体があり管理が行われておらず、大雨の際に被害を及ぼすおそれがある施設
◆農業用の利用を廃止し、他用途(工業、養魚、生活等)で適切に管理され使われている施設
◆「堤体」又は「取水施設」がない施設
・掘込式の貯水池(堤体がない)
(法律)
農業用水の供給の用に供される貯水施設であって農林水産省令で定める要件に適合するもの。
※河川法に規定する河川管理施設、専ら治水や他用途に利用されているため池は該当しません。
(農林水産省令)
堤体及び取水設備により構成される施設であること。
基礎地盤から堤頂までの高さが15m以上の施設にあっては次のいずれにも該当しないものであること。
イ.河川法(昭和39年法律第167号)に規定するダム
ロ.貯水施設の構造に関する近代的な技術基準に基づき設置された施設であって、その所有者又は管理者が当該施設の管理に関し土地改良法若しくは資源機構法の施設管理規定を定めているもの。
No.2特定農業用ため池
農業用ため池のうち、決壊により周辺区域に人的被害が及ぶことが懸念されるとして、管理法に基づき都道府県知事が指定したものです。
(法律)
都道府県知事は、農業用ため池であってその決壊による水害その他の災害によりその周辺の区域に被害を及ぼすおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものを、特定農業用ため池として指定することができる。
(政令)
当該農業用ため池の決壊により浸水が想定される区域(浸水区域)のうち当該農業用ため池から水平距離が100m未満の区域に住宅等が存すること。
貯水する容量が1,000立方メートル以上であり、かつ浸水区域のうち当該農業用ため池からの水平距離が500m未満の区域に住宅等が存すること。
貯水する容量が5,000立方メートル以上であり、かつ浸水区域に住宅等が存すること。
前3号に掲げるもののほか、当該農業用ため池の周辺の区域の自然的条件、社会的条件その他の状況からみて、その決壊による水害その他の災害を防止する必要が高いと認められるものとして農林水産省令で定める要件に該当するものであること。
(農林水産省令)
政令に掲げる要件に該当する農業用ため池に準ずるものであること。
当該農業用ため池の管理を行うものを確知することができないことその他の状況からみて、当該農業用ため池が決壊した場合にはその周辺の区域の住宅等の居住者又は利用者に被害を及ぼすおそれが大きいと認められること。
No.3防災重点ため池
決壊した場合の浸水区域に家屋や公共施設が存在し、人的被害を与えるおそれのあるため池として、「防災重点ため池の再選定について」(平成30年11月13日付け30農振第2294号農村振興局整備部防災課長通知)に基づき選定されたため池です。
ため池マップや緊急連絡体制の整備など避難行動につながる対策を講じるとともに、優先度に応じてため池の補強やハザードマップなどの対策を実施するため池。
選定の要件等は、基本的に「特定農業用ため池」と同じであり、防災重点ため池には国や地方公共団体の所有するため池が含まれる。
No.4防災重点農業ため池
農業用ため池のうち、決壊により周辺区域に人的被害が及ぶことが懸念されるとして、特措法に基づき都道府県知事が指定したものです。
(法律)
都道府県知事は、基本指針に基づき、農業 用ため池であってその決壊による水害その他の災 害によりその周辺の区域に被害を及ぼすおそれが あるものとして政令で定める要件に該当するもの を、防災重点農業用ため池として指定することが できる。
(政令)
当該農業用ため池の決壊により浸水が想定される区域のうち当該農業用ため池からの水平距離が100メートル未満の区域に住宅等が存すること。
貯水する容量が1,000立方メートル以上であり、かつ、浸水区域のうち当該農業用ため池からの水平距離が500メートル未満の区域に住宅等が存すること。
貯水する容量が5,000立方メートル以上であり、かつ、浸水区域に住宅等が存すること。
前3号に掲げるもののほか、当該農業用ため池 の周辺の区域の自然的条件、社会的条件その他の状況からみて、その決壊による水害その他の災害を防止する必要性が特に高いと認められるものとして農林水産省令で定める要件に該当するものであること。
(農林水産省令)
令第1号から第3号までに掲げる要件に該当する農業用ため池に準ずるものであること。
当該農業用ため池の管理を行う者を確知することができないことその他の状況からみて、当該農業用ため池が決壊した場合にはその周辺の区域の住宅の居住者又は利用者に被害を及ぼすおそれが大きいと認められることとする。
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- 2025年3月31日
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